工藤忍と自信の持ち主を探して

 今日はアイドルマスターシンデレラガールズの工藤忍ちゃんの話をします。

 忍ちゃんといえばアイドルになるために青森から家出してきた16歳の女の子。「七転び八起き」という言葉がぴったりで、何事も諦めない強さを持ったアイドルです。

 そんな忍ちゃんのことを勉強しなおして、過去の自分の考え方を更新したいのがこの記事です。

 改めて表現するのであれば、忍ちゃんの物語は「自信の持ち主を探す物語」でした。

きっかけ

 私はそれなりに工藤忍ちゃんのことを知っているつもりでした。シンデレラガールズではどうしても情報としてすべてを追いかけきれないことがありますが、その中でもしっかり追いかけきれているアイドルのひとりです。過去には拙いものでしたがどんなアイドルなのか紹介しようと資料を作ったこともあります。

 ですが、どうしても視点がその時のままで止まっているような気がして、自分に熱意のあるうちに改めて振り返ってみようというのがきっかけです。

 私が忍ちゃんのカードで一番好きなのは[私だけのステージ]です。

 今回はモバマス・デレステのすべてのカードのセリフ、ぷちデレラ、特訓エピソード、メモリアルコミュに加えて、モバマス・デレステのイベントのセリフやコミュも振り返りました。誕生日などの細かいテキストに関しては見直していないです。

 ちなみに今回は紹介できないのですが、モバマスにおける初期Rから、[学園祭]、[ホワイトドロップ]、[ハッピーマジシャン]、[スクールスタイル]、[私だけのステージ]までの物語の丁寧さは随一だと思っています。転んでは立ち上がって、仲間ができて、両親と仲直りして、故郷に戻ってきて、そんなまっすぐな物語を読みたくなったときはぜひ。

 これからするお話は私が工藤忍ちゃんを説明するならばこのポイントを選ぶだろうというものです。

最初に思っていたこと

 私はずっと工藤忍ちゃんのお話を「努力のアイドルの物語」だと思っていました。こちらがびっくりするくらい壁にぶつかって、その度に諦めない忍ちゃん。夢を追いかけるということは眩いだけじゃないんだと、影に隠れがちな泥臭いリアリティを改めて突きつけるものだと考えていました。

 忍ちゃんにとって「努力」は切り離せないキーワードのひとつです。本人もその言葉を何度も何度も口にします。なのでどうしても誰かに説明しようとするときに頭に残ってしまうんですよね。

「努力なんて無駄」って言う人は、本当の努力をしたことのない人…そう思わない?

モバマス ぷちデレラ TOPセリフ

 しかし、私はだんだんと「努力」という言葉で忍ちゃんのすべてを説明しようとすることに、なんとも言えない違和感を覚えるようになりました。気軽に口にできる言葉のわりに説明がものすごく大変なんです。その難しさをいくつか挙げます。

 ひとつは「努力」として表現される部分がそれぞれによって違いすぎるというものです。一言で「頑張っている」と表現されるときに、その実際の量や質は本人が「努力」をどう捉えているかによって変動します。例えば、練習が大好きな子はきっとその大部分を「努力」とは表現しないでしょう。本人が頑張っている、努力していると思っていることは、その子の能力や考え方に合わせた、その子だけのものであって、なにかと比較できないんですよね。

 つまり、この子はめちゃめちゃ頑張っていますということを他人に納得させたいと思うときには、非常に苦戦を強いられることになります。その子にとっては「努力」であっても、他の子にとっては「当たり前」だったりするわけです。

 もうひとつは忍ちゃんの「努力」は荒削りなんです。まだ16歳の女の子として、忍ちゃんは間違った方向に頑張ることがたくさんあります。最初の頃は頑張った後の結果を評価せずに「なにかをすれば努力したことになっている」と思わせる描写があり、もっと言えば「なにかをしないと落ち着かない」という状況になっていました。

 ただしこんなことを言えるのは私達が当事者ではないからです。忍ちゃんにとっては限られた状況の中で打てる最善手であったんでしょう。「頑張る」ということは誰にも応援されずにどんどん分からなくなっていく中で頼ることのできるものとして大切な言葉だと思っています。

工藤忍の物語

自信は誰が持つのか? 

 私は工藤忍ちゃんの物語を「自信」という言葉で見直してみることにしました。彼女の物語は、努力が足りなかったからもっと頑張ろうとか、努力の仕方が間違っていたから正しいやり方を学ぼうとか、それだけの話じゃないと思っています。「努力」は「当たり前」とした上で、「自分を信じるのは誰なのか」ということを教えてくれる物語なんじゃないかと。

 忍ちゃんにとって「信じる」という言葉もまたキーワードのひとつ。アイドルという夢を志したときに両親や友達に応援されることがなかったからこそ、忍ちゃんにとってなによりも渇望するものであったはずです。

アタシがアイドルになれるって信じてくれるんだ。ふふっ

○○さんのことは信じられる。…たぶん、だけど

デレステ 初期R 特訓前 ホームセリフ

 自分を信じるから「自信」ですが、必ずしも自分だけが持っているとは限りません。それを持っているのは自己なのか、他者なのか。そのことを忍ちゃんのメモリアルコミュ1-4、そしてSSR[夢追い人の光]が答えてくれます。

なんのかたちもない自信

 最初の頃の忍ちゃんは「自信」という箱だけを持って中身を持っていませんでした。家出をする前から、上京してきてアイドルになろうともがき、そしてなんとかアイドルになったあたりです。両親にも友達にもアイドルという夢を信じてもらえなかったから、自分だけは自分のことを信じようとしています。

アイドルになれたら…。ううん、絶対になる。アタシだけは信じなきゃ

デレステ 初期R 特訓前 ホームセリフ

 しかし、これはなんの形も持っていない「自信」です。自分に「できる」という暗示をかけて、それを無理矢理にエンジンにしている状態。吹けば飛ぶハリボテです。それでもここまで動かせるってとんでもないことですけど。

 忍ちゃんの夢に対して「自信」はまったく足りていない状態でした。

夢を叶えられない怖さ

 では持っている夢の大きさに対して「自信」が足りていないとどうなるのか。それはバランスが取れていない状態だから「怖い」と思うのでしょう。なんとか釣り合いを取ろうとして忍ちゃんは「なにか動いてさえいれば」足りない部分を埋められると考えていきます。だから基本的に暴走気味です。そのことはメモリアルコミュ1-3で語られます。

 徒労を繰り返して、やっと忍ちゃんはメモリアルコミュ4で「怖い」ということを認めます。なんの実績も評価も持たないけれど簡単には諦められない子にとって、その間で揺れる恐怖がどれくらいのものなのか、忍ちゃんの独白がその一端を伝えてくれます。

自信は自分が持っていなくてもいい

 このメモリアルコミュ4、ステージ前日の夜になにもかも怖くなってしまった瞬間が、本当に足りないものに気づいたときです。忍ちゃんのこれまでに足りていなかったのは「努力」ではなくて「自信」でした。「私なら大丈夫!」という確信です。それは適切に「努力」をコントロールしてくれます。

 忍ちゃんがいじらしいのは、このコミュを通してもひとりで自分を信じることができなかったところです。遠く家出してきてひとりぼっちだったんだから当たり前なんですけど。

 忍ちゃんひとりの自信はまだまだ足りていないけれど、「誰かが持ってくれる自信」で足りない部分を埋めることができます。その最初のひとりがプロデューサーなんです。だからメモリアルコミュ4の選択肢は「信じてるよ」という言葉になるんだと思っています。

 自分を信じるのは自分じゃない誰かでもいいんですよね。「あなたならきっと大丈夫!」という言葉は同じくらいの力を与えてくれます。むしろ自分が持つはずの分を誰かが持ってくれているから身軽なのかも。プロデューサーが自分のことを信じてくれていることをここで確認した忍ちゃんは、次の日にちゃんとステージにあがることができました。

ふたりで見る夢

 メモリアルコミュ1-4で「誰かに信じてもらえること」の大切さに気づいた忍ちゃんの物語の最後を締めくくってくれるのがSSR[夢追い人の光]です。

 このSSRは「アイドルになりたかった女の子の物語」のフィナーレでもあります。だからセリフで改めて「夢を叶えたこと」が強調されていました。ここをひとつの区切りとして、これまではアイドルになりたかった話、ここからはアイドルでありつづける話です。

 もちろん「信じる」という言葉もしっかり触れられています。ひとりがふたりになって、そして仲間やファンを巻き込んでもっと大きな「自信」へと変わっていったことがここから分かります。

 「信じること」は忍ちゃんの原動力だから、プロデューサーや仲間、ファンが信じてくれるのであればもうどこへだっていけます。本人は実はあまり変わっていません。もともと持っている自信はそのままに、誰かが自分のことを信じてくれる分だけ、大きな賭けができるようになりました。

これからのキミへ

 工藤忍ちゃんの物語は大きな区切りを迎えました。じゃあそのあとはどうなっていくのか。今の私では「これから」をまとめることのできる言葉を思いつきませんでした。モバマスでは特に「魅せること」を重視したお仕事として[ノスタルジッククォーツ]や[つないだ光り]が印象的ですが、全体を説明するにはピースが足りていません。

 おそらく現時点の忍ちゃんは、どこへでも行ける代わりにどこにもいないとも言うことができるような気がしています。デレステのススメ!シンデレラロードなどの次の一歩に着目したストーリーが待たれるところです。

 それはそれとして、こんなストーリーがあったらいいなというのはあります。それは「誰かの夢を応援することのできるアイドル」です。ここまでの物語に沿うのであれば「誰かを信じることのできるアイドル」を目指してほしいなと。

 忍ちゃんは「自信の持ち主」をちゃんと認識していて、結果として夢を叶えるためには「努力」だけじゃ足りないことをよく分かっているはずです。そして、誰よりも信じてもらえることの大切さを知っています。だからこそ誰かにそのことを教えてあげられるんじゃないと考えています。ある種の反面教師的な側面も含めて。

 そのピースは実はすでにセリフやコミュの中に見つけることができます。ひとつはデレステのススメ!シンデレラロードの今井加奈編より、加奈ちゃんからの忍ちゃんの評価についてのセリフ。

 そしてもうひとつはデレステのSSR[夢追い人の光]特訓後の親愛度MAXセリフです。

 どちらも忍ちゃんだけの視点から誰かを応援できる可能性を示してくれています。なのでみんなのお悩みを聞くラジオのお仕事とかどうでしょうか。映えはしないけれどぴったりなんじゃないかなって。

まとめ

 これまでのことをまとめます。ひとつは工藤忍ちゃんの物語は「自信の持ち主を探す物語」として読むことができるのではないかということ。

 もうひとつは忍ちゃんのことが知りたいというならば、私はデレステのメモリアルコミュ1-4、そしてSSR[夢追い人の光]を勧めますということです。

 「努力」という言葉に振り回されなければ、すごくシンプルで健全な物語だったんじゃないかなと改めて思っています。諦めの悪さという言葉でも頑張るという言葉でも、なんだか物足りなかった説明に補足ができていればいいんですが。

 最後に、忍ちゃんの憧れたアイドルの姿、なりたいアイドルの姿は実はよく分かっていません。「誰かが憧れて夢見てくれるようなアイドル」とは言っていますが、それがどんな行動として現れてくるのかはもうすこし時間を待つことになりそうです。いつかその形を教えてくれることを期待しています。