Pに自分の髪を切らせるアイドルがいるんですよ、喜多見柚っていうんですけど。

 今日は、デレステでの喜多見柚ちゃんのメモリアルコミュ3が、柚にとって大切な儀式だったんじゃないかという話をします。

 簡単に柚のコミュ3の内容を説明すると、撮ってもらった宣材写真が柚的にいまいち良くなかったのは、トレードマークの前髪が伸びすぎていたからだったので、Pに切ってもらって再挑戦するというお話です。うん、なんてことはないお話ですね。

 ホントに?

髪は女の命

 「髪を切る」ということは大きな変化を表すものとして古来より扱われてきた側面を持っています。「元服」とよばれる成人を示す儀式では、子供の髪型を改めて大人の髪に結い直すということが行われました。また、出家をした人は男女問わずその髪を剃っています。お相撲さんは引退をしたときに髷を切る「断髪式」が行われますね。

 特に「髪を切る」という行為に意味が発生するのはフィクションの世界においてです。失恋をした人がばっさりと長かった髪を切ってしまうというシーンはこれまで数え切れないほど使われています。現実においてもロングからショートにすると「失恋した?」と聞かれるほどです。

 とりわけ女性は「髪は女の命」と呼ばれるが故に、「髪を切る」という行為に「心機一転」という意味を持たせられることが多いと考えています。ロングからショートへという変化が大きなインパクトを与えるからかもしれません。

 アイドルマスターの世界も例外ではありません。765ASでは三浦あずささんや星井美希ちゃんのエピソード、そしてミリオンでは周防桃子ちゃんと真壁瑞希ちゃんが歌った楽曲「Cut. Cut. Cut.」なんかは、「髪を切る」ことがフィーチャーされています。

 さて、シンデレラガールズにも「髪を切る」ことが描写されたアイドルがいます。しかもただ髪を切っただけでなく、プロデューサーに髪を切らせるということまでやってのけています。自分がこだわりを持っているという前髪を。なんてやつだ!!! まぁほんの少しだけなのですが。

 そんなアイドルが「喜多見柚」です。

やり取りに感じる違和感

 デレステにおけるメモリアルコミュ3は基本的に宣材写真を撮るという回になっています。特に多いパターンが宣材写真を撮るにあたってNGが出るというものです。例えば綾瀬穂乃香ちゃんは笑顔が「出来すぎている」という指摘をもらっています。

 それに対して柚は一度OKをもらっています。撮影において何枚か撮ることは当たり前なので「OK! もう1枚」となったわけです。しかし、なにかしら思うことがあった柚は写真を見せることを要求し、なにか良くないと、その理由は前髪が伸びすぎているからだ、という風に考えていきます。

 このコミュで覚えた違和感は、ほんの少しの前髪の違いでそこまで大きく変わるのかという点です。もちろんフィクションですから大げさに書かれていることもありますし、ぱっつん前髪がこだわりの柚にとって譲れないラインというのがあるのかもしれません。しかし、それでも会って間もないはずのプロデューサーに自分の髪を切らせるというのはとんでもないことです。髪は女の命!

 私は、これはもっと大切な意味が隠れているのではないか、「柚にとって髪を切ることが大事な意味を持つのでないか」という風に考えました。つまり、前髪の外面的な変化よりも柚の内面的な変化に注目することができるはずだと。

 この個人的な仮説を置いたときに、喜多見柚のメモリアルコミュ3は、1つの前提と、3つのお話に分けることができました。それぞれ「トクベツという期待」、「青い鳥は死んだ」、「パッツン!」、「急には伸びない」の順に見ていきます。

トクベツという期待

 喜多見柚というアイドルは、聖夜に街をふらついていたところをプロデューサーにスカウトされたという経緯を持っていて、この時のことを柚は「奇蹟」「神様からのプレゼント」という表現をしています。自分がまさかアイドルになるなんて微塵も思っていなかったわけです。

 そして、柚は自分自身を「トクベツ」な女の子だったとも思っていなかったようです。デレステのNの特訓コミュでは、サポートの方が得意だから前へと出ていくアイドルには向いてないと思っていたという発言がありました。

 柚は自分のことについてとても冷静な視点を持っています。だからこそ柚はモバマスのぷちデレラのセリフやエピソードで自分がスカウトされた理由を探ろうとします。もしかして、自分では分からないけれど、なにか光るモノがあったのではないかと。

プロデューサーに声かけられたってことは、柚には何か光るモノがあったんだろーねー。なんだろ?

喜多見柚 ぷちデレラ TOPセリフ Lv.1-10

 ここまで強調されると、さすがに裏を読みたくなってきます。この娘は、自分のことをものすごく客観視していて、その上で自分が「トクベツ」であってほしいという期待を微かに持ち続けているのではないかと思ってしまうわけです。

 みなさんは15歳のときどんな子どもでしたか? 若くして才能を発揮する同級生を羨ましいと思ったことはありませんか? どうして自分には何もないのだろうと思いませんでしたか? 

 初期の喜多見柚には、そんなありきたりな「トクベツへの期待」が見え隠れしているという視点に立ってみると、メモリアルコミュ3がまったく違うお話に見えてきます。

青い鳥は死んだ

 喜多見柚はメモリアルコミュ3で、他のアイドルと同じように宣材写真の撮影をします。そこで柚はOKをもらった上で、じゃあもう1枚撮ろうとなったことに疑問をもったのは先に述べた通りです。そしてカメラマンさんに撮った写真を見せてもらっての感想がこちら。

 そのテンションとBGMで言うセリフじゃない!!!!!

 そこに先程の前提が乗っかってきます。アイドルになれた柚は「トクベツ」だったのかもしれないという期待……いやいやいや! そう考えると「ザ・普通」も「パッとしてない柚だから当たり前だけど」もより重く感じられます。

 自分にもあるかもしれない光るなにかを探していたところに突きつけられる現実。柚にとって世界がぱぁっと明るくなるようなものを期待していたけれど見られなかったという事実が、確かにこの瞬間には隠れています。

 アイドルらしい「トクベツ」な自分自身が写っているかと思ったら、あまりにも「フツウ」の自分自身が写っていました。

 とりわけ宣材写真を撮るという仕事は、アイドルの顔になる重要な仕事でありがながら、受動的な側面を持っています。アイドル自身の手でというよりは、カメラマンさんの立派な機材とプロの手で、アイドルらしい第一歩を踏み出していくお仕事です。

 だからこそ柚は期待したのかもしれません。自分はなにも変わっていないけれど、プロデューサーが見つけてくれた原石としての光るなにかが写ってくれるはずだと。でも、そんなお手軽な理想郷なんてなかった。

 この瞬間に喜多見柚の抱いていた幸せの青い鳥はいなくなったんです。

パッツン!

 柚は自分が「フツウ」のままであるという現実を見たあとに、その理由を微妙に伸びすぎた前髪だと考えて、プロデューサーにこう言います。

 さすがのプロデューサーも戸惑いますが、柚の勢いに押されて最終的に髪を切るのを手伝いました。このやり取りも少し怖いんです。ぱっつんにするだけとはいえ、まだ出会ったばかりだろうプロデューサーに髪を切らせようとして、「プロデューサーサンにも、ちょっと責任あるし」とわずかに脅迫めいたところも。

 ここで最初のお話に戻ってきます。「髪を切る」ことには「心機一転」の意味をもたせることが多いというものです。それをあてはめてみると、ここで大きく変わったのは喜多見柚の外面じゃなくて内面。

 この瞬間は喜多見柚にとって生まれ変わりの儀式なんです。

 柚は自分にも光るなにかがあるかもしれないと期待していました。その期待は自分の宣材写真を見た瞬間に消えかかっています。その期待をちゃんと手放して、お別れを告げるために必要なこととして、「髪を切る」ことが選ばれたのではないかと考えています。

 「髪を切る」ことは古くより生まれ変わりの儀式として扱われてきました。そう考えるとプロデューサーの手を借りたことも納得がいきます。プロデューサーはこの儀式の立会人なんです。

 そして、ここで柚は「なにもしなくてもトクベツなのかもしれない」という期待とお別れをすることができました。それってすごく大切なことです。

 柚の初期のセリフには面倒くさいことを避けて、できるだけ楽をしようという部分が見え隠れしていました。でも「楽しめ!」とは受け身で待っているだけではなくて、いろんなところに飛び込んでみてその状況を楽しむことだと思っています。だからきっと能動的になった方がもっと楽しい世界が待っているはず。

 その通りにこのコミュは進んでいっているんです。

急には伸びない

 前髪を切ったことで宣材写真は「ちょっと」良くなりました。そのあとのセリフはこう続いていきます。

 自信なさすぎでは!!!!

 でも、ここまで振り返ってみたこと、柚は「自分もトクベツなのかもしれないという期待」とお別れをする儀式をしたんだという推測を踏まえると、自分に言い聞かせるようなセリフに見えてきます。柚は一通りの整理を終えて、自分を受け入れる作業をしていくわけです。それが「急には伸びない」です。

 アイドルになれたからといって自分がトクベツだったわけじゃない、アイドルになったからといって急に変わるわけじゃない、そう自分に言い聞かせて。

 そう言い聞かせることはネガティブに見えますが、もっと明るい捉え方もできます。柚は生まれ変わったので、アイドルとしてまっさらな状態からスタートできます。それが分かっているからこその「急には伸びない」ですし、「もらった分は、じわじわ伸びるから!」なんだと思っています。

 前髪みたく……ねっ!

まとめ

 ということでまとめると、喜多見柚のメモリアルコミュ3は、それまでの期待とお別れして、新しく自分と向き合い直すステップであり、そのモチーフとして「髪を切る」という行為が儀式的に使われたのではないかなと考えています。

 このコミュの愛おしいところは、常に明るいトーンで話が進んでいくことです。セリフやモチーフは影を感じさせますが、それは柚に陽の光があたっているからこそ生まれるものです。

 なによりもこのコミュが明るいのは、柚が自分自身をとても冷静に見ていると同時に、そんな自分に絶望しすぎていないことがあるからでしょう。柚は期待を胸に宣材写真の仕事に臨みましたが、そんな期待が外れても、ちゃんと儀式を済ませることで新しい自分を始め直すポジティブさを持っています。

 そんな陽の光と影のバランスが、目を離せない、そんな女の子にしているのかなと思います。

 これまでの話は週末に喜多見柚ちゃんの話をする雑談ラジオ「ユズトーーク!!」の「No.6 メモリアルコミュ2-3」のコミュ振り返り回が発端です。この発想をくれた生放送メンバーに感謝します。アーカイブがニコニコ動画のコミュニティ限定動画としてあがっていますので気になる方はお聞きいただければ!

ニコニコ生放送コミュニティ「ウィークエンドユズ」